東京高等裁判所 昭和44年(う)19号 判決
被告人 小林孝
〔抄 録〕
所論は、要するに、原判決は、被告人がデート嬢等に不特定の男客等を売春の相手方として紹介し売春の周旋をしたことを認定し、売春防止法第六条第一項所定の犯罪が成立するとしたが、原判示のデート嬢等の各売春は同女等が個人的にした行為であり、被告人は、これを認識して敢て周旋したものではなく、被告人が経営する「東京観光」の客の申込に応じバー、キヤバレー、ダンス等に同伴して遊興の相手をさせるためデート嬢を派出したにすぎないものであり、原判決の右認定は判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認である、というのである。
よつて、按ずるに、原判示事実は、原判決挙示の証拠によりすべてこれを認めることができる。第一に、なるほど本件周旋に当つて、すべての男客及びデート嬢から被告人に対し、明示又は黙示の「売春の」周旋依頼があつたものと断定することは証拠上できない(但し、一部については右のような依頼があつたものと窺われる)が、いずれも男客及びデート嬢双方に売春を行う意思があり、且被告人と両者との間の形式上の約束はともかく、事実上は、被告人が両者を引合せた後は、両者は一緒に自由に行動することができ、売春が行われることを防止するための何等の措置もとられていなかつたので、被告人の周旋によつて両者の間に売春が行われることとなる蓋然性があつたことが認められる。第二に、右証拠、特に被告人の捜査官に対する各供述調書によれば、本件周旋に当つて、被告人が「売春の」周旋をする意図、目的を持つていたとまでは断定できないが、少くとも男客及びデート嬢の双方が売春を行う意思をもつている蓋然性があると考えながら、両者の間に売春が行われることを防止するための事実上の措置をとる意思がなかつたのであり、その周旋によつて売春が行われることとなる蓋然性があることを十分認識し、これを認容していたことが認められ、右認定に符合する被告人の捜査官に対する各供述調書が所論主張のように任意性及び信憑性に疑いがあると認めるべき事由は記録上発見できず、右認定に反する被告人の原審公判廷における供述は右各供述調書と対比して、又右認定と牴触する証人林信次の原審公判廷における所論援用の供述は同証人と被告人及び本件との関係、供述内容(前後矛盾する点がある)並びに供述態度を総合すると右被告人の各供述調書と対比して、いずれもこれらを信用することができず、その他いずれも所論が援用する、平石弘美の検察官に対する供述調書及び証人富川阿具の原審公判廷における供述、会員証、誓約書及び備付帳簿の各記載と被告人が売春の対価そのものの全部又は一部を受取つていないこと等右認定の反証につき考慮しても、未だ右認定を覆すに足らない。而して、売春防止法第六条第一項の法意に鑑みると、右認定の被告人の行為が右条項にいう「売春の」周旋にあたることは明らかであり、犯意においても欠くるところはないものと解せられる。その他訴訟記録及び原裁判所において取り調べた証拠を精査しても原判決に所論のよう判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認があるとは認められない。論旨は理由がない。
(脇田 関 環)